2012年8月13日月曜日

昨日活字になった歌

二回目の死を待つ肉のために鳴るタイムセールの鐘朗らかに

日経歌壇(8月12日) 穂村 弘 選
(評)
動物としての「死」の後に「肉」としての「死」があるとは。 生命の連鎖を思う。

今年2月ぶりの一席。

穂村さんに届く予感はあったけど、
まさか一席になるとは思っていなかったので嬉しかった。

この歌は、ちょうど一ヶ月半くらい前に
Twitter上で開催された「1時間歌会」(山本まともさんによる突発企画)に提出した、
準遺体安置所として食肉の売り場は四季を通じて寒い
という短歌の生まれ変わり。
生まれ変わる前の歌も着想は気に入っていたものの、

・「準遺体安置所」という言葉のインパクトに頼りすぎ
・字数合わせのために「食肉売り場」に「の」が入ることのぎこちなさ
・「四季を通じて寒い」の状況説明が当たり前すぎて伸びしろがない

ことがどうも気持ち悪くて好きになれず、

もっと自然な表現で、生から死、次の死までの
時間の流れを感じられる歌にしたいと思って
ゼロからつくりなおした。

自分が良いと思った着想は、一回上手く歌に出来なかったくらいで捨ててしまわずに、
ぴったりくる表現を粘り強く探してみることが大切だと思った。

今回の日経歌壇では、自分の歌が載ったこと以外に嬉しいことがもうひとつあった。
「何らかの歌詠みたち」の傍観担当、木下龍也さんの歌も載っていたのだ。
遠回りさせる構造なのだから遠回りしてレジまで来いよ (木下龍也)
偶然にも僕の歌と同じスーパーとかコンビニっぽい場所指定の短歌。
これは穂村さんの粋な計らいのような気がしてならないのは、
おそらく僕の気のせいだろう。

彼の実力からすると今後もまたどしどし載るだろうけれど、
日経での彼の(おそらく)デビューに立ち会えたのは良かった。

2012年8月6日月曜日

ぐっときた歌

短歌くださいと日経歌壇の両方に納得のいく歌を投稿するのは
今の自分の実力だと大変で、息切れしがち。

その点、両方で常連になっている鈴木美紀子さんは凄い。


5歳までピアノを習っていましたとあなたの指に打ち明けるゆび (鈴木美紀子)
短歌ください(ダ・ヴィンチ 2012年9月号)

そばにいるひとにはきっとわからないすれちがうときあなたは香る (鈴木美紀子)
日経歌壇 穂村弘選(2012年8月5日付)


昨日の日経歌壇は他にもいい歌が沢山あった。
特に、僕の注目している「お二方」の歌が
岡井さん、穂村さん両方の選で一席に選ばれていて、
二首とも素晴らしかった。
「ああ、自分にとって懐かしい夏、好きな夏ってこういう情景だなあ」と
思い起こさせてくれた。

妹の浴衣の赤が映えるよう心まで濃い藍を着た夏 (魚ノ棚法子)
日経歌壇 岡井隆選(2012年8月5日付)

おっさんがラジオ体操第一のままで第二にひそむ朝もや (羹 昌浩)
同 穂村弘選(2012年8月5日付)



自分が惹かれる歌に共通する特徴って何だろう。
思いつくままに書いてみると、

 当事者性が感じられる。

 日常にひそむ何気ないディテールを、
 五感にねざした視点、先入観のない子どものような視点で捉えている。

 その歌で描かれている状況に置かれたことがないのに、
 なんだかそこに居たことがあるような気にさせられる。

 なにげなく切り取った風景に、元から詩情がひそんでいる。
 或いは一言添えることで詩情を生みだしている。

そんなところか。
これらは自分が志向する歌の特徴でもあるし、
またいずれ文章にまとめて考えてみたい。

今日活字になった歌

胆石と高血圧の既往あり健診太郎三十二歳

ダ・ヴィンチ『短歌ください』(9月号)第53回テーマ「年齢」 
(穂村さんの選評)
「『大阪太郎』とか『年金太郎』とか、市役所の記入用紙の見本にある人名のプロフィールを見るのが好きです」という作者のコメントがありました。私も彼らを想像してみることがあります。若過ぎたり完全健康体だったりすると、健康診断の問診票の見本である「健診太郎」は務まらないんですね。

6月号以来の採用。
7月、8月は納得のいく歌が作れず、二首しか投稿できていなかった。
やっぱり五首は送らないと載るのは厳しいのかな。

ただ、自分で納得のいく歌は必ず(穂村さんには)届いているのは嬉しい。
自分でも嘘くさいと思う歌は百発百中で没になっている。

『短歌ください』は、単行本として続編が出るとしたら
第31回~60回までが収録されるだろうから、
出来るだけ多く載せておきたい。

今月号には、くどうよしおさん、山田水玉さん、山本まともさん、と、
知った名前の方が3人も載っていた。
みんな劣らず面白い歌で、そのことも嬉しかった。


【番外】 同じ「年齢」テーマで送って没になった歌。
もう熟女モノに出るのか去年まで女子高生の役だったのに
熟女好きの某隠れキノシタンを喜ばせるつもりで作ったけれど、叶わなかった。